[後編] 語り#01ー学生の主体性を引き出す、「待つ」姿勢を支えるもの

語り#01

学生の主体性を引き出す、「待つ」姿勢を支えるもの(大学教授・17年目)

 

生徒たちと日々向き合っている、とある大学教授のお話です。赴任大学では今年で勤続17年目。現在は副学部長としての役割が中心ですが、1年生の基礎演習、2〜4年生の授業にゼミにと、多様な学びの場で生徒たちと関わりを持たれてきました。#01後編です。

 

key words:#楽しい授業をつくりたい #主体性を引き出す #やる気がない学生も、待つ #褒める #みんな自分と違う人間 #大講義が大変

 

文:桐田理恵
聞き手:小畑怜美
*本記事は、2018年3月の対談の様子を記事にしています。

 

――学生の主体性を引き出すために、先生がされてきた工夫などありますか?

 

笑顔で接すること、褒めてあげることですかね。あとは、自分がこういうことをして欲しいと考えていることを、ちゃんと相手に説明することです。

 

例えばゼミで3倍勉強させるときも、「こういう意図があって3倍勉強させようと思っています」「スケジュール管理はしないからそちらでしてほしい」「こういった時間繰りが必要になる」というこちらの意図と注意点を伝えれば、積極的に関わってくれるんですよね。

 

これは夫婦や親子にも言えることだと思うんですけれど、「こうしてくれよ」よりは、ちゃんと説明をしてわかってもらって、そうして相手が動いたら褒めてあげるとどんどん主体的になるのかなというイメージを持っています。

 

 

――とても素敵ですね。一方で、思うようにいかないなぁですとか、学生との関わりで葛藤や難しさを感じてきた部分はありますか?

 

やはりクラスの人数が100以上にもなる講義の時間には、難しさを感じますね。それを以前知人の教授に相談したら、「学生を信じられるか信じられないかで、授業がうまくいったと思うか思わないかが決まるよ」と言われました。「100人以上の授業だと実際は興味を持っていない学生もいるけれど、最後まで本当に信じきれたら学生たちも段々と興味を持つようになるから大丈夫だよ」ということを言われて、そこからは学生を信じきってやらないといけないんだなと思うようになりました。

 

――学生を信じきる。これからのチャレンジになりそうですね。

 

そうですね、大きなチャレンジですね。私が大事にしたいのは自分が伝えたことが学生の中にどれぐらい残っているのかというところなので、たとえ雑談が半分でも、実践の時間が多くても、学生に結果残るものが多い授業をしたいですね。

 

――「学生の中に残る」というのは、とても大事なことのように思います。

 

はい。学生の明日、ひいては社会に残っていくということですからね。

 

――最後に、ご自身が作りたい教室の様子や学びの姿について教えてください!

 

なるべく学生が楽しく学んでくれるといいなと思っています。あとは、ためになっているとき/なっていないときどちらでもいいのですが、いつだって自分が考えていることをちゃんと言えるようになってほしいなと思っています。学生には主体性を持って学んでほしいんです。

 

あとは、学生のやる気が生まれていくような授業をしたいですね。以前500人ほどの授業を受け持っていたとき授業スライドや資料をいくら改善しても学生の学び自体に特別な変化が生まれない授業が続いて、良い学びのためには教え方の工夫よりも学生たちのやる気を引き出すことが大事なんだと感じたんです。

 

――先生の、その授業や学生との関わり方を良くしていくことへのモチベーションはどこから生まれてきているのでしょうか。

 

そうですね……僕らが一方的に授業をしていることが、実は学生に疎外感を与えているのではないかという課題感からでしょうか。「あなた方は一方的に聞いていればいい。教員は別にあなた方の意見なんか聞かないよ」という雰囲気になっているんじゃないかなと感じているんですよね。それでは学生も学校が嫌いになるし、楽しくないし、どんどん来なくなると思っていて。本当は教員がどんどん学生と関わってあげられたらいいと思うのですが、それにも限界があるので、授業も変えたらいいのではと思っているんです。

 

授業を変えていくことに抵抗がある教員も多いと思いますが、なるべく手間のかからない、誰でもできる形で授業を少しでも変えていきたいなと思っています。

 

――教員も、学生も「楽しく」ですね。先生のこれからの挑戦、引き続き応援しています。またお話聞かせてくださいね。

 


< 桐田理恵/ライター・編集 >
1986年茨城生まれ。早稲田大学第一文学部卒。学術書の書籍編集、起業家支援のNPOでのメディア運営を経てフリーランスに。ローカル、社会起業、スモールビジネス、組織開発などのテーマで執筆・編集のお仕事をしています。