[前編]語り#02 ー聴くことは他者を理解しようとすること、そして自分が変わることを受け入れること

語り#02

聴くことは他者を理解しようとすること、そして自分が変わることを受け入れること

生徒たちと日々向き合っている、國學院大学経済学部の助教授・齊藤光弘さんと、同学部3年生の岩淵理加さんのお話をお届けします。

齊藤さんは、200人もの学生や先生方と日々コミュニケーションをするなかで「聴くこと」への難しさを、岩淵さんは下級生の学びをサポートするFA(学生Facilitator & Adviser)として担当クラスの学生の話を「聴くこと」に難しさを感じていたそうです。そんな2人が自身のリーダーシップを高めるためにコーチングを学び、コミュニケーションの実践を重ねてきました。自分自身や関わりを持った相手や教室に生まれた変化とはどのようなものだったのでしょうか? and seeds小畑との鼎談でお届けします。

key words:#聴くとは相手を理解しようという姿勢 #率直に気持ちを伝える #人の好き/嫌いをこえて #先生と生徒 #先輩と後輩

対談:齊藤光弘先生、岩淵理加さん(大学3年)、and seeds小畑
文・聞き手:桐田理恵
*本記事は、2018年3月の対談の様子を記事にしています。

――偶然二人とも、コーチング研修を受ける前に「聴く」ということに課題感を感じていたそうですね。

岩淵理加さん(以下、岩淵):そうなんです。仲間の FAの皆から「もっと相手の意見を聞いて」と度々言われていたのですが、個人的にはその言葉の真意をまったくつかめず、自分は他の人と比べて人の話を聞けていると思っていて。「こんなに話を聞いているのに、なぜ相手は自分の話を聞いてくれないんだ」と相手に不満の気持ちを抱いていたくらいでした。

その時にコーチング研修を受け始めて、自分が「聴けていなかった」ということに気がついたんです。相手の言葉や意見を聞くことは大事と思っていたのですが、相手の感情や本当のニーズまで聞くことは意識できていなかったんですね。自分のある種の傲慢さみたいなものを反省しました。

齊藤光弘さん(以下、齊藤):すごい大人だ……!!

―― 一同:(笑)

小畑:研修の中で印象に残っている岩淵さんの反応があります。「会話の中では話し手と聞き手がいて、聞き手は相手の話していることをしっかり聞かないと『聴き手』にならない。聞いている間に相手に言いたいことを考えているような聞き手になっていませんか?」とお伝えしたら、「まさに自分は聞いている最中に心の中で『わかった、わかった、わかった』と言っている」とおっしゃっていたんですよね。

岩淵:意見を聞いているつもりでも、こちらとしては「それは違う」と言いたいことがいっぱいで、話しているうちに「どうすれば相手の考え方を直せるだろう?」と考えていたんです。

齊藤:岩淵さんが周囲の言葉を聞こうとしてくれていたのは感じていたけれど、確かに「どれだけ聞けばいいんだ!」と途中で苛立っていたよね。その自分に気づいて、聞くことへの理解が深まっていっているのがすごいね。

――本当に素晴らしいですね。ところで、斉藤さんにとっては「聴く」ことへの課題感ってどのようなものだったのでしょう?

齊藤:ちょうどその時期は、関係者の数が一気に増えたタイミングで約25人×2クラス、FAの学生が 23人、他大学でも教えていて加えて他の先生方と、、、合計200人ぐらいの人たちと常にやり取りするような日々で、しっかりと聴くこと自体を諦めていたような時でした。

でもコーチングを学び直しながら、改めて、表面上の言葉を聞くのではなくその奥にある相手の思いを汲み取るということと、相手の話をもう少し聞きたいと思ったら再度質問するということを意識して頑張れるようになりました。

私にとっては私1人対200人のやり取りの感覚でも、相手にとっては1対1の関係性なのだから、相手は自分の話を聞いてほしいと思うよなと考えるようになったんです。すると自然に、相手にきちんと関心を持って「何を考えているのだろう?」と聞いてみたいと思えるようになりました。

――そうしたお二人の振る舞いは、相手にどんな変化をもたらしたのでしょう?

岩淵:ある時、モチベーションが上がらない学生にその理由を聞いてみたら、「バイトがあるから」という返答をもらったんです。今までの私だったら、バイトを優先している時点で相手にやる気がないと判断して言い返していたところを、「そうか、バイトも大事だよね。じゃあバイト以外のところで時間は作れないかな?」と、相手の気持ちを尊重して相手の変化を探ることを実践できたんです。その学生は、FA の人はこんなにも自分に頑張って欲しいのかと思ってくれたようでモチベーションも上がったように感じました。

齊藤:岩淵さんを見ていて、相手とのコミュニケーションに対する忍耐力が上がったというか、腰を据えて取り組んでくれるようになったなと感じます。やり取りが難しい学生に対してもきちんと話す機会を作るようにしていて、能動的にクラスの皆に接してくれるようになった気がしていますね。

――素敵ですね。斉藤さんの教室では何か変化があったのでしょうか。

齊藤:岩淵さんの素晴らしい話のあとだと話しづらいですが(笑)。まず、相手とのコミュニケーション頻度を高めようと「最近どう?」という声かけを意識的にするようにして、一人でも多くの人と話そうと頑張りました。

それと、これまでは授業の課題がうまくいっていない学生を「できていない学生」と決めつけてしまいがちだったんですが、最近は「何がどこまでできていて、何ができていないのか?」と相手の状態や状況を理解しようと思えるようになりましたね。そうすることで、「次はどうしようか」という話を相手と一緒に進めていけるようになったと感じています。

>>> 後編へ続きます

*本記事は、2018年3月の対談の様子を記事にしています。


< 桐田理恵/ライター・編集 >
1986年茨城生まれ。早稲田大学第一文学部卒。学術書の書籍編集、起業家支援のNPOでのメディア運営を経てフリーランスに。地方創生、社会起業、スモールビジネス、組織開発、探究学習などのテーマで執筆・編集のお仕事をしています。