語り#01
学生はみんな自分と違って、それぞれに思いがある(大学教授・17年目)
生徒たちと日々向き合っている、とある大学教授のお話です。赴任大学では今年で勤続17年目。現在は副学部長としての役割が中心ですが、1年生の基礎演習、2〜4年生の授業にゼミにと、多様な学びの場で生徒たちと関わりを持たれてきました。
そんな先生がコーチングを教室で活用する中でどのようなことを感じたのか、and seeds小畑怜美との緩やかな対談を通してお届けします。
key words:#楽しい授業をつくりたい #主体性を引き出す #やる気がない学生も、待つ #褒める #みんな自分と違う人間 #大講義が大変
文:桐田理恵
聞き手:小畑怜美
*本記事は、2018年3月の対談の様子を記事にしています。
――先生のご専門を聞かせていただけますか?
米国の財政、福祉が専門です。たとえば、福祉は日本では政府がすべて進めてくれるのですが、米国では政府の支援を受けたNPO や民間企業が福祉的な要素を広げていくんです。それが一体どんな仕組みになっているのか、政府の側の視点から研究しています。
受け持っている授業は、財政学に関するものと、1年生の必修授業。あとは2〜4年生のゼミですね。大きい授業で130人ほど、ゼミ生は10人ちょっとです。
――長年授業をされてきて、大講義も多く経験されていると思うのですが、いま授業の中ではどんなことに取り組まれているのでしょうか?
そうですね、たとえば1年生の基礎演習でアクティブラーニング型のグループ活動をさせるということをしています。私自身が「やる気のない学生にどう関わるのか」というのはいつも抱えている課題です。
なるべく学生に対して苛立たないように、どう自分を整えていけるのかというところですね。あとは、なかなか意見を言わない学生や、やる気が感じられないような態度をとってしまう子にも、「なるべく何も言わず待つ」ということをしています。
正直、その待つ時間は大変ですし、学生はグループ活動が多いので1人のやる気がないとチームの雰囲気が悪くなるのですが……。それでも、時間を経て、少しでも学生が自ら頑張ったタイミングでその子を私が褒めてあげると、本当に喜ぶのですよね。
――学生が何か始める前に、先生が安易に指示したり、正したりしてしまうと、学生の頑張りも見られないかもしれない。なるべく待つのですね。
誰かが見ていることがその子にも伝わっているんだろうなと思うと、自分にとってはこの「待つ」ということが学生たちにとって大事なことだと感じます。
――私も教室にお邪魔させていただきましたが、先生は教室全体をしっかり見ながらご自身も朗らかしていて、すごく教室の雰囲気がいいんですね。見守る時間もしっかり長く持たれていて、その成果だったのですね。
それはコーチングを学ぶようになってから、いろんな人が世の中にいて自分と違う存在なんだと腑落できたことがすごく影響していると思っています。やる気がなさそうな学生も、もしかしたらやる気はあるけど表に出ない人なのかもしれないし、自分にとって苛立つ態度も、その人自身が“悪い人物”だからというわけではないんですよね。
反射的に相手の態度に反応する前に、「別に悪い学生じゃないんだ」と距離を置けるようになったことは、本当に良かったと思っています。
――それはとても嬉しいです。他に、教室で取り組んでいることはありますか?
人の話を改めてちゃんと聞かなきゃいけないんだなという気づきもあり、気をつけています。特にアクティブラーニング型の授業では大事だと思います。
「この生徒はこうなりがちだから、こう変えた方がいいんじゃないか?」とか、つい教えたくなっていたのですが、「この人はこの人でいいんだ」と思うようになって、彼らのいろんな話を聞くことができるようになったんです。そうして聞くことで、いろんなことがスルッとうまくいくようになるという流れを今年はたくさん体験しました。
――その人の人となりがあって、自分とは違うんだというところですよね。
50年近く生きてきて実感したというのがお恥ずかしい話ですけど……、本当に腑に落ちたという感覚ですね。
――先生がそうされることで、学生のみなさんに何か影響はありましたか?
そうですね、今年はゼミ生に例年の3倍ぐらい勉強させたのですが、そのときの学生たちの変化が印象的でした。
どう3倍かと言うと、これまでグループ論文を年間で1本書かせていたのを3本書かせたんです。その際に以前まではスケジュール指示など内容以外の部分にも関与していたのですが、今年はあまり言わないようにして。自分たちで計画を作って自分たちが考えたようにやりなさいという形で進めてみたんです。そうしたら、結果しっかりと課題を達成してくれて。言わなくてもやれるんだということがよく分かった1年でした。学生が動き始められる状況を作ってあげれば、勝手に学生たちは考えてくれるんですよね。
――なるほど、先ほどの「待ち」のスタンスのお話とも繋がっているエピソードですね。
そうですね。関われるような状況を作って、待つといいんですよね。相手側の主体性を引き出すという感じでしょうか。
>>> 後編(6/6配信)へ続きます
< 桐田理恵/ライター・編集 >
1986年茨城生まれ。早稲田大学第一文学部卒。学術書の書籍編集、起業家支援のNPOでのメディア運営を経てフリーランスに。ローカル、社会起業、スモールビジネス、組織開発などのテーマで執筆・編集のお仕事をしています。